インタビュー1「ぽんぽん船」責任者
今、行われている施設外就労の取り組みについて、障がい者自立支援事業所ぽんぽん船の責任者である柳楽好美様に、これまでの経緯や始まる前と今、そしてこれからの思いについて伺いました。
障がい者自立支援事業所ぽんぽん船を立ち上げられた経緯を教えてください。
それまでは、多伎町内には障がい者の事業所というのがありませんでした。それまで、皆さんは町外の大田市や旧出雲市の施設を利用されていました。
その頃に周辺の佐田町や大社町、湖陵町にも作業所ができていましたので、地元の多伎町の精神障がい、知的障がい、身体障がいの家族会などから「多伎町にも家から通える場所に障がい者の福祉施設があるといいね」という声が上がりました。そこで、旧多伎町の歯科診療所の建物を多伎町に増改築をしていただいて、建物が完成したのが平成14年の8月でした。丁度、今年の夏で10周年になります。
障がい者自立支援事業所ぽんぽん船の「ぽんぽん船」という名前の由来を教えてください。
国道9号線を松江の方から車で来ると、初めて海が見えるのが多伎町なのです。多伎町は海もあるのですが、キララ多伎に代表されるように海が綺麗で有名です。準備委員会の方からも「海にちなんだ名前がいいね」ということを言われ、海にちなんだ名前で皆さんの活動にあった名前ということで「ぽんぽん船」になりました。
社会では、高速船のように目的地に早く到着することやフェリーのようにたくさん荷物を積めるというようなことが求められ、評価されているのですが、ですが、障がいのある方は速くということやたくさんということは中々難しいです。だから、自分の持てるだけの荷物を持ち、自分のペースで、ゆっくりと目的地に荷物を運べる、「ぽんぽん船」のように社会の役に立ちたいという気持ちで通ってこられる方の気持ちを汲んで、ここの事業所の名前を「ぽんぽん船」にしました。
ぽんぽん船のオリジナルクッキーの販売をどのように拡大していかれましたか。
まず、頑張ったら頑張った分だけお金がもらえるような仕組みを作りたいと思っておりました。ぽんぽん船の利用者の規模で、食品関係の仕事をしようと思ったら、クッキー作りが一番しっくりきました。
最初は、キララ多伎のキララベーカリーのアンテナショップにクッキーを商品として置かせてもらいました。それ以外にも、トヨタカローラの担当者の方にお客様にお出ししているお菓子を、ぽんぽん船の利用者さんに作っていただき、その手作りのオリジナルクッキーをお客様にお出ししたいというお話もいただきました。そして、実際に土日にトヨタカローラにお越しくださったお客様が、クッキーを食べたら、あまり美味しかったので、その包装紙の裏を見たら「ぽんぽん船」と書かれおり、それを見られたお客様がクッキーを注文をしてくださったりと、本当に多くの人の「ぽんぽん船のオリジナルクッキーは美味しい」という評判が少しずつ拡がってきました。
そのがやがて、いちじく温泉やいちじく館、出雲歴史博物館などに商品を置いてもらえることに繋がっていき、やがて農業生産法人株式会社桃源様とも取引をさせていただくことに繋がっていきました。
農業生産法人株式会社桃源様と施設外就労を始めたきっかけを教えてください。
元々は工賃倍増計画のモデル事業の中で、中小企業診断士の方が「農業生産法人株式会社桃源」という直売所があるけど「ぽんぽん船で作ったクッキーを置いてもらったらどうか」という話しがありまして、まずは、事業所で作ったクッキーを桃源様の直売所に卸して、販売をお願いしておりました。
実際、その時に農業という方向性はあまり考えていなかったのですが、その頃に世界的な経済不況で事業所に来る仕事がパタッと無くなりまして、「他に何か新しい仕事はないかな」と思っていたところに、桃源様から「農林水産省経営人材育成課の『障がい者アグリ雇用推進事業』という事業に一緒に応募しませんか」というお話しがありました。
利用者さんに「農業の仕事のお話しがきていますけど、どうしますか」と伺ってみたところ「やってみます」という前向きな返事が返ってきました。少し不安があったのですが、桃源様からも「これはモデル事業なので、ぽんぽん船でできることとできないことを一緒に見つけながら進めていきましょう」という温かい言葉をいただき、「それでは、やってみよう」ということに決まりました。ですが、いきなり利用者さんだけで、農業をということは難しいので、指導員が配置できる支援スタイルということで、施設外就労を始めました。
施設外就労に対する不安はありましたか。
利用者さんに考えを伺ったときに「やります」と言われたのですが、当然、農業に対する不安があったと思います。また、指導員は指導員で、実際に現場に行って、農業でどんなことが利用者さんにできるのかという漠然とした不安もあったと思います。
また、桃源様は、実際にビニールハウスでトマトの生産する仕事をどこまで障がいのある方ができるのかという、それぞれの立場で皆さんがやる前は不安があったと思います。
しかし、その不安以上に「不況で仕事が少ない」という現状に対する危機感が、指導員や利用者さんも感じておられ、最終的には利用者さんの「やります」という、そのチャレンジ精神を尊重にして、農業という新しい分野に進む覚悟を決めました。
施設外就労を行うことでどう変わってきましたか。
モデル事業も今年で3年目なるのですが、「この仕事は難しいから利用者さんにできない」「この仕事はできる」というように仕事の振り分けをしながら、お互いに手探りで前に進んでおります。当然、仕事の中身も1年目より変わってきていますし、仕事のやり方も変わってきています。最初に桃源様に行った利用者さんは、得意や不得意はあまり関係なしで、一律に同じ仕事をしていたのですが、実際に仕事をやってみると、利用者さん一人ひとりに得意や不得意が見えてきます。それをきちんと整理して、得意な分野を活かす指導員の配置であったり、仕事が円滑に行える段取りをできるような仕組みづくりができるようになってきました。
このモデル事業をやったことで、桃源様でしか得ることができない経験や機会の提供などの「就労の力」を養うことにできるようになってきました。
そうしてお互いにやり取りをしているうちに、桃源様からは「ぽんぽん船から来てもらわないと仕事が困る」というぐらいに期待をしていただき、利用者さんの仕事に対するやる気に繋がっており、ぽんぽん船でも「桃源様の仕事が無くなると困る」という、お互いの深い信頼関係ができ上がりました。
インタビュー2「ぽんぽん船」担当職員
日々、利用者の支援を行っている障がい者自立支援事業所ぽんぽん船の指導員 椿雅子様に担当者の視点で、今回の施設外就労について現場の利用者の様子や具体的な対応など率直な思いを伺いました。
この施設外就労での椿様の役割を教えて下さい。
朝、桃源に到着したら、岸様から仕事の内容を聞き、その聞いた内容を利用者さんそれぞれに合う役割に分担し、作業をしていただきます。全く新しい内容に仕事は、桃源の岸様から仕事のやり方を教えていただき、それを利用者さんにフィードバックするような役割の仕事をしています。
実際の作業は、全て利用者さんにやっていただくので、それを見ながら、やっている内容が違っていたら、きちんと指導をして直していただきます。それ以外にも働くための基本的な姿勢が身につくように指導を行っています。
ぽんぽん船で作業をする時と桃源で作業をする時の利用者さんの違いを教えてください。
私自身がぽんぽん船で作業をするより、桃源いることが多いので、あまり詳しくは言えませんが、はっきりしていることは、生き物を相手にしている仕事なので、自然は常に変化がするので、頭の切り替えを早くして作業をしていただかないと、前に中々進みません。
利用者さんも真剣に話を聞かないと作業ができないので、顔つきも休憩のときと作業をするときで大きく違っております。毎日、仕事に内容が変わってくるので、そこがぽんぽん船での作業と大きく違うところです。ですから、利用者さんが、自分から積極的に桃源の岸様に聞いて、農業の勉強をしておられる姿をよく見ます。
利用者さんが今日は気持ちが作業に向いていない場合にどういった支援が必要ですか。
仕事に気持ちが向いていない場合は、利用者さんに「今日は仕事が出来ますか」と直ぐに聞いて、もしも無理だと判断した場合は休憩を取ってもらいます。一旦休憩して、作業ができそうであれば続けてもらい、できそうになければ、その時にできる範囲の仕事をしてもらいます。様子を見ながら、体調が回復しれば仕事に戻ってもらいますが、それでも無理な時は、経験豊富な柳楽に相談し、その都度対応しています。
施設外就労で支援をすることになり不安な要素はありましたか。
正直、常に不安はありますが、不安があっても実際にその作業を利用者さんに取り組んでもらいます。その作業を取り組んでもらって、本当に無理なら、違う作業に取り組んでもらいます。
実際に、どんな仕事でもできるかどうかは、利用者さんに取り組んでもらわないと分からないので、ゆっくりでもその作業ができるようなら、ゆっくり覚えながら作業に取り組んでもらいます。そうしているうちに、少しずつでも作業のスピードが速くなってきて、新しい仕事を覚えたという自信がつくことで、それがやる気に繋がっています。だから、ゆっくりでも良いので、一つひとつの仕事を覚えて自信をつけてもらって、仕事を身につけてほしいと思っています。
施設外就労をやってきて利用者さんにどんな変化がありましたか。
一番の変化は、今まで使えなかった道具が使えるようになることです。ハサミをつかったことがない人も、桃源様で働く場合に当然、ハサミを持たなくてはいけない状況になります。最初は、ハサミを使うとうまく切れなくてグチャグチャになるのですが、グチャグチャになっても何回でもやってもらいます。やっているうちに、少しずつ慣れてきて、ハサミを使って真直ぐに切れるようになります。畑の虫が嫌いであったり、掃除が嫌いという人が実際にいても、回数を重ねていくうちに環境に慣れることが大切だと思います。
その他にも、この仕事をすることで「体力がついた」という利用者さんもおられます。桃源に来た当初は、立ち仕事で1時間も立って作業ができなくて、直ぐに座り込んでしまう利用者さんも、今では丸一日立って作業ができるように変わってきています。継続することが重要だと思います。
それ以外にも、野菜を収納する15kgのコンテナが持てなかった利用者さんも、少しずつ重たいものを持つように支援していくと、少しずつ筋力がつき、今では10kg以上のコンテナを持つことができるようになってきています。そういった体力的な変化と精神的な変かも少しずつ見えてきております。
今後、施設外就労をしていく事業所の方に支援のアドバイスがありますか。
私もこの仕事をして、まだ一年目なので手探りで、利用者さんと頑張っている状況なので、あまりアドバイスになるかはわかりませんが、一つ言えることは、私自身が働いて頑張っている姿勢を見せないと、利用者さんにそれが伝わらないということです。仕事をする姿勢を、私自身の後ろ姿をから、利用者さんに伝えるようにしています。
もう一つは、間違っていると厳しく指導した後に、直ぐに良いところを褒めるということを心掛けております。怒るときには怒る、褒めるときは褒めるということのメリハリを付けながら支援をすることを心がけております。
利用者さんから元気をもらう瞬間がどこにありますか。
常に利用者さんから元気をもらっています。私は、利用者さんが栽培ハウスで乳酸菌を入れている姿が一番好きで、その利用者さんが真剣にやっている姿を遠くから見守っています。乳酸菌を掘った穴にいれないといけないので、物凄く集中してその作業はやらないとできないです。この仕事を始めた当初と比べると、利用者さんが仕事に取り組む姿勢が大きく変わっているので、その自信をつけた姿を見るとどうしても感動します
それ以外でも、トマトを拭く作業をしていて、利用者さんが指示をきちんと理解して作業をされた結果、ピカピカのトマトが並んでいるのを見ると、この仕事をやっていて良かったと充実感を感じております。
インタビュー3「ぽんぽん船」利用者
現在、農業生産法人 株式会社 桃源で作業を行っている利用者のみなさんは、どんな思いで取り組んでおられるのでしょうか?
お忙しい作業の合間に、感想などをちょっと訊いてみました。
農業生産法人 株式会社 桃源で作業をする前はどんな気持ちでしたか?
- どんな仕事があるのか、少し不安はありました。(利用者Aさん)
- ぽんぽん船の先輩に色々なこと話を聞きました。(利用者Bさん)
ここで作業をはじめたときはどうでしたか?
- 桃源の方に優しく仕事を教えてもらえるので、楽しいです。(利用者Bさん)
- ぽんぽん船とは違う環境なので色々ことが経験できます。(利用者Aさん)
- 楽しいです。(利用者Dさん)
- 先輩に色々と話を聞いて、仕事をしています。(利用者Bさん)
今の仕事をしていて楽しいこと、困ったことなど教えてください。
- 汗っかきなので、夏の暑さは少し厳しかった。(利用者Aさん)
- ぽんぽん船とは違う環境なので色々ことが経験できます。(利用者Aさん)
- 年に1回お食事会に寄んでもらえるので、嬉しいです。(利用者Cさん)
これからの目標、目指すことを教えてください。
- ブドウなどの栽培の仕事ももっとしてみたいです。(利用者Cさん)
- 糖度を測る機械をもっと頑張りたいです。(利用者Bさん)
「農業生産法人(株)桃源」様へ何かメッセージがありますか。
- 岸さんには、いつも優しく教えてくれて、仕事が楽しいです。(利用者全員)
インタビュー4「有限会社桃源」関係者
施設外就労の取り組みを受入されている農業生産法人 株式会社 桃源の生産部 岸富美子様に、企業の立場から今回の取り組みについて考えたことや、思いについて伺いました。
御社と、ぽんぽん船様がモデル事業を行うことになったきっかけを教えてください。
私は病院の精神科に勤めておりまして、退職をした後に社会に役立つ仕事をしたいが、自分には何かでるのかということをずっと思っておりました。お年寄りが、地域で生き生きと働かれる仕事に携わりたいと強く思っていたときに、たまたま、「桃源でトマト作りやってみないか」という話しをいただきました。そういった経緯で、桃源で働くことになりました。
実際にトマト作りをしていく中で、廃棄しているトマトがあるので、その廃棄しているトマトを湖陵町の障害者共同作業所みずうみという事業所と連携をして何かできないかというふうに、ずっと思っておりました。そんな想いがを桃源の代表取締役の石川と相談をしておりました。
ですから、今までの経緯と障がい者自立支援事業所ぽんぽん船と想いが一致して、この話が実現しました。私自身も、障がい者の方の社会復帰ということについては、関心をもっていましたので、本当に良い出会いがあったと思っております。
実際に、ぽんぽん船様と事業をする前に、どんな不安がありましたか。
今回の仕事は農作業ですから、事業所で活動をされている利用者さんは、部屋の中で作業をされていることが多いと思います。当然、農業は外に出ますので、暑い日も寒い日も作業も外で作業を行います。外以外にもハウスの中での作業もありますが、寒かったり、温かったりと温度変化が激しいところで作業していただくので、実際に続くのかなという不安はありました。
それ以外にも、受け入れる立場として、ぽんぽん船の利用者の皆さん通ってこられる上で、嫌な思いをされることがないようにするにはどうしたら良いかということが一番大事だなと思っていました。そうしている間に、このモデル事業の実施が決まり、7月に顔合わせをし、それから1ヶ月半ぐらい間に何回か話し合いをし、実際には9月2日から、ぽんぽん船の利用者さんに来ていただきました。
私自身は、障がいのある方と一緒に仕事をすることについては、あまり不安がありませんでした。やはり、病院の精神科に勤めていたということが大きいと思います。
受入してみての率直な感想をお聞かせください。
そうですね、桃源の大規模出荷をし始めた時でしたので、私自身が仕事でかなり手一杯だったので、ぽんぽん船の利用者さんにこの仕事をしてもらえるという見通しがあまり立たない状態からのスタートでした。ですから、ここでの作業を全て、利用者の皆さんにしてもらいました。時間的な制約もある中で、実際にしてもらえる作業を見つけるために、9月から始めて、翌年の1月ぐらいまで、色々試行錯誤しながら進めていきました。実際に、ぽんぽん船の皆さんに丁度良い作業量を見つけるのに4ヶ月ぐらい掛かりました。
今では、トマトの出荷を中心に糖度を測ったり、シールを貼ったりという作業と、トマトに乳酸菌を与える作業、そして配達する仕事をお願いしております。
実際にここまで、やってこられて、ハッと気づかされたことは何ですか。
当初は継続できるかという想いがあったので、「半月ぐらいまでは、半日の仕事でお願いします」と言っていたのですが、ぽんぽん船の皆さんの方から1日でも良いという言葉が返ってきて、私自身も「桃源に来て、働いて良かった」ということをぽんぽん船の皆さんが感じていることが凄く嬉しかったです。
それと施設外就労を始めた時期が、9月の丁度暑い時期でしたから、1ヶ月が終わったときに、「やってきて良かった」とみんなで安堵したことが印象に残っております。
周囲に気を使いながら、他人をカバーしてくれる利用者さんもいれば、黙々と自分の作業をする人もいたりと三者三様で、色々なタイプの利用者さんがおられました。ですが、それぞれが力を持っているので、繰り返し作業を行うことで、能率も直ぐに上がり、私たちが思っている以上に力を発揮してもらえたと実感しています。以前は、一日を掛けてもできなかった乳酸菌をトマトにあげる作業も、最近は直ぐに終わってしまうので、ビックリしております。能率が上がることで時間的に余裕ができ、今後はトマト以外にブドウの栽培も手伝ってもらっております。
ですから、ぽんぽん船の利用者さんの存在は、桃源には無くてはらなない存在になっております。それもこれも、皆さんが努力をして力を付けてこられたからだと思います。
これから障がい者の受け入れを検討される企業へメッセージをお願いします。
この事業は「農業と福祉を繋げる連携」を目的に行ってきておりましたが、福祉のところは皆さんがやる気がある多くの事業所が手を挙げておられるのですが、それを受け入れる企業の体制が広がっておりません。実際に桃源でも3年を掛けて、ようやくお互いの思惑が一致するような状況なのですから、受け入れを考えておられる企業さんは、結果を急がずに長い目で見守っていただければと思います。
実際に農業の現場は、兼業農家が多く高齢化しているということが実情です。そういった農家の人と福祉事業所の人材をうまくマッチングしていけば、お互いの思惑が一致する継続的な仕組みを作っていけると思います。
ギャラリー