第3回 ワークくわの木江津事業所の挑戦

 これまで、福祉事業所が中心になって、地域ブランド商品としての商品開発や販売はあまり行われてきませんでした。しかし、島根県障がい者就労事業振興センターとワークくわの木江津事業所を中心とした西部の福祉事業所が連携し、石見の特産品であるサツマイモを材料とした「石見おいもの学校」という新商品を自分たちで開発し、販売するという取り組みを実現されました。

 そこで、第3回となりましたピックアップ情報では、この画期的な取り組みを実現に結びつけ、活動の中心として頑張ってこられた皆さんの商品開発にかける情熱などの”現場の声”を紹介いたします。ぜひご覧下さい。

インタビュー1 ワークくわの木 施設長

 

ワークくわの木江津事業所でおいもの学校プロジェクトをやるというお話をどう思われましたか。

 ワークくわの木江津事業所の前身は、杉の子作業所といって市の委託事業でしたが、それでいわみ福祉会のほうで江津にもそういう柱になる事業所が必要だという機運が高まり「江津にも福祉事業所を立ち上げましょう」ということで、ワークくわの木江津事業所が開所しました。それで、事業の内容については江津事業所のメンバーで、ここで何をするかということでいろいろ考えました。

 おいもの学校プロジェクトについても「おいもの学校をしなさい」とか「サツマイモを栽培しなさい」ということがあって始めたのではなく、農業という分野は、非常に利用者さんが働く機会や場面をたくさん提供できるという思いがありました。しかし、農業で利益を上げるということは非常に難しいことでしたが、一般の人も食べること、安全性や地域の中で地産地消をすることは重要であるという意識が高まった時期であったので、農業は絶対にやっていこうという思いがすごくありました。

 しかし、実際に農業をやっていくにも、利益が上がらないことには、利用者さんの工賃も多く支給できないので、そこをどうするかということが課題でした。農業で収益を上げるためには生産した野菜をどう卸していくかということが重要で、いわみ福祉会は施設が多いので、そこに生産した野菜を卸すという方法で消費はある程度確保できるという見通しを立てました。

農業という分野ですが、農業に対する不安などはなかったのですか。

 実際に一般のプロの農家さんでも、例えば野菜を作って出荷する場合は、大体売上げの3割ぐらいが収益になれば非常に上出来だと思います。しかし、いわみ福祉会だけに野菜を卸していてもわずかな収入にしかならないし、もちろん私たちは農業のプロではないので、3割収益を出せる品質の野菜を作るといのは難しいことなのです。そこで、収益を上げるための手段として、生産体制を6次化して自分のところで全て商品作りを行っていこうと考えました。つまり、野菜の加工まで自分のところで行えれば、全体の6割から、7割の利益が確保できるということで、それに取り組んでみようと思いました。

 それと、もう一つは石見地方には福祉事業所が点々とある中で、やはり、一般の企業や、お菓子屋さんに対抗していくためにも専門性と呼ばれる技術がどうしても低いということが課題でした。その専門性をカバーするために、たくさんの注文された量を受け入れる態勢を作っていく必要がありました。そうすると、ワークくわの木が一事業所だけで頑張ってもなかなか難しいのです。大きな市場を開拓していくためには、複数事業所が連携してやっていくことが重要なポイントでもありました。

 そこで、まず、連携ができ易いものとは何かと考えたときにサツマイモが真っ先に浮かんできました。昔から石見地方では、幼稚園や小学校でも盛んに行われてきました。つまり、小さいころからサツマイモの栽培経験をしている子どもたち多く、全くわからない言う人はいないという利点がありました。ですから、他の事業所でも、サツマイモの栽培から加工まで、商品ができ上がるまでの過程の中で、どこかに関わりをもっていただけるのではないかと思いました。それがサツマイモに目を向けた最大の理由なのです。

サツマイモは商品開発しやすくて、生産しやすいということで、今回のおいもの学校という商品を作るという流れになったのでしょうか。

 サツマイモは商品開発しやすいということではありませんけども、生産がしやすいということは言えると思います。サツマイモは根菜類ですので、そんなに、毎日管理をしなくても良いので、だから葉物の野菜を作りながら、合間にサツマイモの管理をしていくということができました。

 実は、農作業で一番大変なのは、ワークくわの木江津事業所にはビニールハウスが全く無い状況なので、冬場の仕事をどう確保するかというが結構大変なのです。サツマイモは秋に収穫をするので冬場に加工があるからと思い取り組みましたが、実際はなかなか商品開発というのは、そんなに甘いものではないなということをつくづく感じました。

 その加工する商品として、サツマイモを加工した干しいも作りを始めました。干しいもは、そもそも一般の農家でもやっていましたし、私たち自身も、昔は干しいも作りを経験していますから、品質の良し悪しは別にしても、見よう見まねである程度の干しいもができるのではないかという思いはありました。

サツマイモ栽培等農作業というのは、天候に左右される大変な作業なのですけど、利用者さんが、それにどう取り組んでこられたのか教えて下さい。

 農作業で何が大変なのかというのは非常に判断しづらいところです。苗の植え付けや畑の準備に関しては、実際に植え付けをして、間では草取りと水やりも利用者さんにやってもらっています。ですが、サツマイモは葉物野菜のように頻繁に手入れをしなければいけないといことはありません。やはり、夏の一番暑い時期に畑の草取りなどをやってもらうわけですから、そういった暑さ対策という面が一番大変だと思います。とは言っても農作業というのは基本的には外でする仕事ですから、他の野菜に比べてサツマイモが特に厳しいっていうことはないです。この厳しい暑さで仕事をすることに対する喜びや苦労は、どんな仕事でも同じなので、農業が大変であるということはありません。

やはり、サツマイモ栽培や加工というのは、連携が取りやすい性質があるのでしょうか。

 この農園芸の分野は、お互いに連携しやすいと思います。福祉は、やはりスポット的に高まるということはあり得ないと思います。やはり、その地域全体が福祉に対してレベルアップを考えていかないといけません。例えば、ワークくわの木江津事業所だけが、技術的に飛びぬけていて、利用者さんの福祉活動がすごくて、その周りの地域の福祉が、すごく貧困な状態というのはあり得ないと思います。

 それは、利用者さんにとって、事業所での活動以外に、日常生活が半分あるわけですから、一歩事業所の外に出た場合、生活を含めた全体のレベルが低ければ、福祉活動もレベルが低くなるので、エリア全体の福祉レベルを上げていくこと重要だと思います。そしてワークくわの木江津事業所だけ福祉レベルが高まっても、そんなに社会全体の福祉レベルが高まったということには繋がらないので、その連携を横に広げていきやすい仕組みが必要ではないかと思います。でも、それってすごく難しいですよね。。

 同じ法人でも、いろいろな障がいを持っている人が事業所に来ておられますし、同じ障がいの人が集まっている事業所もありますけれども、そこですら繋がりがなかなか連携を取りにくいが現状です。

 そこで、サツマイモの加工であれば、商品がどんどん出るような仕組みを考えれば、他の事業所にも、いろいろな仕事をお願いできますし、あるいは生活介護レベルの重い人でも畑に出て芋を掘るといったことに関わっていけるわけで、非常に良い仕組みを生み出すことができると思います。

 そもそも江津市の海岸部は、昔からサツマイモの栽培というのは盛んでしたが、今はもう荒地が非常に増えているから、そういうような荒地を利用してサツマイモ栽培をするということに意義があり、サツマイモの栽培・加工は、連携を広げるためにも重要な活動でもあると、私自身が思っております。

それぞれの福祉事業所が工賃をアップさせるためには、どのような仕組みや連携が必要でしょうか。

 そういう仕組みを作りたいが、なかなか思うようにはいかないものです。そして、一つの事業所が、ずっと作業所時代から積み上げてきているものには限界があります。

 例えば、島根県東部で連携し、勾玉やお守りを作った場合に、最初は目玉商品として、一時的には伸びるけども、いつまでも売れ続けることはありません。やはり、食べるものというのは消費が早いです。置物や焼き物など、そういう商品だと一回買うと、次の商品を買うまでの期間が長いですよね。そうすると、食べるものというのが一番確実に仕事も生まれてきます。これまで一つの福祉事業所で、10以上も取り組んできたところでも、工賃倍増計画を立てても飛躍的に工賃が上がったというところは、あまりありません。結局伸びない理由というのが、消費がある程度のところで頭打ちになっているという状況があるのです。とは言っても、全国をターゲットにインターネットで大量に通販すればどうかというと、一つの事業所で製品を準備できる数量は限られていますので、とても、全国あるいは全県の中で扱えるだけの商品を一つの事業所で作ることは不可能なのです。そうしたら、どうしても複数の福祉事業所が連携し、大量生産できる仕組みを作ることが必要になってきます。福祉事業所も一般の企業と張り合うためには数量で勝負するしかないです。人員も含めて、そうやっていくことで広がりがある程度確保できるのかなと思うのです。その中で、ある程度「おいもの学校」の製品というものが知れ渡ってきて、商品がどんどん出ていくような仕組みをつくれば、一つの福祉事業所だけで全て商品まで完成しなくても、例えばサツマイモを栽培するところだけあっても良いし、苗を仕立てるところがあっても良いと思います。ですから、作業をある程度分散させて、お宅の事業所では苗を仕立ててください、うちの事業所がその苗を使いますというようなかたちができ上がり、苗だけを仕立てた事業所だけでも収入が格段に上がってくる。そして、ある程度の規模でサツマイモを栽培し、それをまとめて収穫し、袋詰めをする。それを近くのスーパーに販売する。販売仕切れなかったサツマイモを加工のほうに回すから、生産ロスが少ないのでまとまった量のサツマイモを栽培することができるのです。そうやって、事業所どうしが繋がっていく、一つのモデルケースとしても非常に意味がある取り組みだと思います。

このプロジェクトの最終の目的はどういったものでしょうか。

 今、石見の福祉事業所の就労継続支援B型の平均工賃が3万円に届かないと思います。それを5万円にするのは至難の業です。だから、就労継続支援B型で考えていけば、繋がりを横へ広げていって、複数の事業所の工賃を3万円程度までにしていくことが重要なのです。不可能なことではないと思います。今のように一つの福祉事業所だけが一生懸命頑張っても、工賃3万円にするには、中核となる商品を作り上げていかなければ、到達することはできません。このプロジェクトに石見地方の多くの福祉事業所が、ぜひ参加して連携の輪を広げていってもらえればと思っております。